「青鞜小説集」

青鞜小説集 (講談社文芸文庫)

青鞜小説集 (講談社文芸文庫)

「時代を先取りし過ぎていた。」という言葉は、才能のない人間にとっての恰好の逃げ道となることがあります。それはけっして悪いことではなく、逃げ道がどこかにあるのはいいことだと思います。危ない!と思ったら逃げるのは動物の本能です。それも許されなくなったらにんげんのほとんどがしんでいると思います。しかし、この雑誌を作った人々は、命がけで時代を先取りしていたので、その命がけ感に圧倒されます。そういう人々がチョイスした作品群は、まったくゆるやかで、質素で、平凡で、しかし怒りや生命力に満ちていました。まっすぐに人間を描いていました。夫の元カノが貸した物返せよとやってくるお話しとか、男から男にしなだれかかって渡り歩きながらも、「男、まじバカ。」と生きる女の話とか、声変わりして超ハズいと葛藤する少年のお話しとか、普遍的でありながら倫理に挑戦することはわすれないたいへんおもしろい作品ばかりです。とにかく全部おもしろいですから、「女の権利を主張する女はまじきもい。」という考えの人も読んでみたらいいと思います。