「西海原子力発電所/輸送」

出てくる人が全員九州弁のお話しでした。九州弁はいいです。なぜならわたくしの故郷も九州だからです。この小説の中の九州は、わたくしが生まれ育った九州ではありませんが、それでもニュアンスがとても伝わってきますから、「九州弁だなぁ〜。」とノスタルジックになりながら読みました。と言いたいところですが、ノスタルジックとは程遠い、全編鬱々としており、どこにも活路を見いだせないまま終わったので、たはー!てなりました。原発の町での反対派と推進派、原爆による被爆者と被爆者であろうとした人々、それぞれが抑え込んでいた秘密や感情が、一組のおかしな組み合わせの男女の死をきっかけにあれよあれよと表面化してゆくので、たいへんおもしろかったです。最後にある女性の手紙で終わるのですが、この構成はまったくすばらしいし、田舎町のあの閉塞感が実によく描かれていますから、読んでいない人はぜひ読んでください。(「西海原子力発電所」)
にんげんは自ら進んで無力になろうとする、のお話しでした。核廃棄物を輸送中、事故でキャスクが壊れ、放射性物質が町中に撒き散らされるコワイやつです。町が確実に汚染されてゆくさまが描かれており、それは実際の核汚染と照合すると「ん?」となるところもあるんですけど、何が本当で何が嘘かもわからない中でその汚染されてゆくにんげんのこころや、緊迫感、どのように人は行動したかは本当だと思いました。このフィクションはノンフィクションらしく振舞ってくるので大変おもしろかったです。最後はなんにも解決しないのでウワーてなりますからぜひ読んだらいいと思います。以上です。(「輸送」)