「貧しき人々」

貧しき人々 (岩波文庫)

貧しき人々 (岩波文庫)

貧乏の人々が、貧乏が諸悪の根源だ!きっと神様がお助け下さる!と手紙のやりとりで傷を舐め合って終始貧乏なお話しでした。貧乏小役人のダメおやじは、元はわりと裕福で教養はあるけど、今はド貧乏な暮らしをしている乙女がだいぶ好きであるのに、「勘違いしないで、ぼくの君への愛は男女の愛というよりもっと人間的な、もっと大きな意味での愛だよ〜。」と言ったり、「全然貧しくないし、今住んでる部屋は超快適さ!」と見栄を張るのですが、貧乏乙女は本当を全部知っていて時にはおっさんを援助したりなどしてやっていましたから、おっさんマジだめだわぁってなりました。乙女がとても困窮していると知るや否や、工面して金をかき集め乙女に送ってやったりして、乙女に「なんでこんなことなさいますの!お止しになって!あなたも貧乏なんだから!」と怒られるなどしていました。しかし、この乙女も感情に任せてダメおやじに「あたくしもうダメですわ。あなただけがわたくしの理解者!」などと書いたりするからおっさんはもっとダメを発揮することになるんじゃないのかよと思ったりもしました。手紙ってこんなに感情的に書くものなのか、なるほどーと思いました。わたくしは手紙を感情的に書いた記憶がありませんし、なんだったらなるべく相手のこころに波風をたてない、無駄な感情を排除した文章をと考える人間なので、この貧乏の人々の手紙にかけるエネルギーに驚きました。職場の人々になめられ、明日食う事にも不安をかかえているのに、「わたしの天使さん!(ダメおやじは時々少女をこう呼ぶ。やばい。)」と情熱的な手紙を書くなどしていましたから、ほんとうに孤独なおっさんなのだわ、気の毒、と思いました。時にはゴーゴリーの小説クソだ!と言ってみたり、君の手紙がぼくの生きる希望さと言ってみたり、しかし絶対に「愛しているから一緒に暮らしたい!」的な事は全然言わず、そうこうしているうちに、そのおっさんの大切な天使は、貧しさに負けて猛烈求婚してきた大地主と結婚するのでした。モジモジモタモタしている男より、ちょっと難ありだけど力技グイグイな男を選びました。おんなというのはそういう生き物なのだ。結婚が決まった後に、乙女がおっさんにある頼み事をするのですが、「けっしてお間違いにならないでくださいましね、AではなくBですから。Bなのですから。いいですか、Bなのだから…!あたくし心配なのです、Bなのですよ!」と何度も念押しするので、おっさんはこの乙女にもだいぶなめられとるんじゃないのか?と笑いました。おっさんは、事態がもうどうにも変えられなくなってしまってから、これから先ぼくはどうしたらいいんだい、君はなんでそんなこときめちまったのさ!手紙はもう終わりなのかい!?と混乱していましたが、お前は混乱している場合じゃないだろう、明日の飯のことを考えろよてなりました。面白かったです。