「美しい夏」

美しい夏 (岩波文庫)

美しい夏 (岩波文庫)

わたくしには瑞々しさが足りない。そう思い読んでみました。少女と女の間を行ったり来たりしている16歳と19歳のお話しでした。彼女たちの恋愛や、女の子同士のあの変な嫉妬心など、まことに瑞々しい、果汁ほとばしりのストーリーでありながら、元気ハツラツの雰囲気はどこにもなく、登場人物すべてが何かを抱えて生きていました。この子らの2倍の年齢になったからでしょうか、何とも言えないなつかしさを感じるのですが、わたくしはこの子らのような友人関係を経験したことがありませんから、なつかしさと表現するのは正しくないと思います。しかし郷愁を感じるのですから、なんと想像力豊かな人間なのでしょうか、わたくしは。びっくりです。びっくりして今椅子からすべり落ちました。恥ずかしながらイタリア文学を初めて読んだのですが、他の作品も読んでみたくなりました。少女たちのこころの声がまったくリアルに描かれており、違う国の随分昔のお話しですが映像が鮮明に浮かんできました。また、この作者は男性であるそうですが、メンタルはフェミニンなのではないかと思う程に実体のある「女」というものを描いていましたから、そういうところがとても気に入りました。わたくしもこのようにジューシーな時間を過ごしてきたのでしょうか。昔のことはよく覚えておるのに、ジューシーな記憶が見当たりません。まかり間違って生まれ変わることがあったら瑞々しく生きたい。そう思いましたが生まれ変わることなど絶対にないのでどうでもいいのでした。