「ワインズバーグ・オハイオ」

ワインズバーグ・オハイオ (講談社文芸文庫)

ワインズバーグ・オハイオ (講談社文芸文庫)

ネタバレ許すまじの人には甚だ申し訳ありませんが、ジョージがこの町から出て行く最終章はまったく素晴らしいの一言です。この架空の町ワインズバーグの人物たちはおおむね閉塞感と焦燥感、怒りと悲しみで出来ていました。短編連作となっており、町の新聞記者ジョージ・ウィラードをからめてこの住人たちの過去や現在が描かれていますが、ジョージの視点からではなく、ジョージ自身も何もかもに疲れ切ったような母親と暮らしている、この町の一住人として描かれます。頭がおかしいと言われているけど全然おかしくなんかないと思っている頭がおかしい男や、町を出て行った男を静かに待ち続けながらも心の中は強盗に入られた後のようにぐちゃぐちゃの女、女教師の部屋を覗き見して自分の信心を試す牧師。この覗かれる女教師も様子のおかしい女で、まともな人間などだれもおらぬ。わたくしはとても田舎で18歳まで暮らし、大学進学で日本の中心地東京へ出てきました。母は、田舎から出たことのない近所のおばちゃんたちに、「東京に娘ん子をば出して、うちはおじい(恐ろしいの意)してよう出さんよ。」と言われました。都会がおじいことがあるものか。どこにおってもおじい。人間が集合している場所は都会も田舎も関係なくおじい。どんなにまともに見える人でもこのワインズバーグの住人たちとなんらかわりないのであるからして。人間は悲しみの中でしか生きていけないのではなかろうか、だとしたらまったく難儀な生き物である。そういうお話しでした。