「迷路のなかで」

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

タイトルがカッケーと思ったので買いました。読んでみたらフランス人のおっさんが書いた迷路みたいな小説でした。あれ?さっき読んだ?と思うような似た情景が何回も書かれるので迷ってしまいます。わたしを迷わせないでください。人生の迷路もクリアできるかどうかもわからないというにどうしてくれるんだ。ドラえもん、出口がまったくみつからないよ。あれを貸してくれよ。ジャイアンなんかよりも人生の方がよっぽど怖いよ。すみません、横道にそれましたが(迷路なだけに!)、なんだかしんだような町を行ったり来たりで、少年が出てきたり、兵隊や住人が出てきたりしますが、その誰にも明確な名前がない。主人公である兵士でさえ、自分が兵士なのか、何を目的にどこへ行こうとしているのか定かではないし、部屋の中や街並みの描写はとても丁寧で絵画のようであるのに、そこにいる人間は輪郭がぼんやりしてまったく迷路感がすごいです。人間の存在なんて不確かなものであるといわんばかりの。われわれはどこから来たのか、われわれは何者か…ゴーギャンゴッホの耳を切ったのはゴーギャンなのではないか。ああ、そうだとも、あいつは荒くれ者だからやりかねないよ。横道にそれましたが(迷路なだけに!)、こんなにぼんやりした内容なのに物語の中に吸い込まれるような感覚になれるなんてすばらしい。これはええやつですから、人々にもぜひ迷っていただきたい。