寒いっていいよね!南国育ちだけどね!

冬の宿 (講談社文芸文庫)

冬の宿 (講談社文芸文庫)

阿部知二初めて読みましたよ。たいそう面白かったですよ。もう、こういうどんよりしたの大好き。どんよりしておりますが、動きがあるのでダラダラした感じがなくて、そういうところも気に入りました。なんだか投げやりな学生が没落した身分の一家に下宿することになるのですが、この一家が個性的。夫の嘉門は横暴で、しかし小心な男で、大変な放蕩の末今や守衛の仕事でなんとか暮らしている。妻のまつ子はそんな夫に強制的にクリスチャンとしての生活を強いており、夫の乱暴な言動にシクシクと耐えている。この夫婦にはふたりの子供があり、この姉弟が物語を一層面白くしております。主人公が初めてまつ子に会ったときから、下宿当日に再会したときの心の動きがすごくよく伝わるように表現されていて、とにかく人の心情をかなり丁寧に、でも無駄なく描かれていて読んでて飽きない。面白い。しかし、そこそこ大人でないとこの面白さはわかるまいて。
主人公の隣の部屋に下宿することになった高という韓国人の、列車の中での話で朝鮮という国についての例えがとても印象的だった。終盤で、ぱっと季節が変わる瞬間があり、それの描き方がいいなぁと思ったし、ラストがなんだかコミカルでもあり切なくもありかなり良い作品でございました。