分け入っても。

横しぐれ (講談社文芸文庫)

横しぐれ (講談社文芸文庫)

ぬがー。もーー、なんぼほど期待を裏切らんのよ、文芸文庫。裏切らんすぎて、おぢちゃん逆切れでおま。
ええと、この作品はRain in the windというタイトルで英訳されているそうですが、横しぐれ*1ということばの持つ情緒とか、なんつうか微妙なニュアンスはやっぱり英語じゃ伝わらないだろうなと思います。逆もしかりですが。
そんなわけで「横しぐれ」です。生真面目な町医者だった父と、その友人である教師が旅先で出会ったみすぼらしい坊さんは種田山頭火だったのでは?という疑問から、息子は坊さんが本当に山頭火だったのかどうかを調べていくうちに、父の別の側面を掘り起こすことになるってなお話。山頭火に対する愛着は全くゼロなのに、さまざまな文献を探し、集めて謎解きをしようとする心と相反する行動がかなり細かく書かれてまして、これは短篇ですけど、十分読み応えあり。この表題作の他三篇についても同様。「だらだら坂」では男が若い頃にカツアゲされそうになり、相手ともみ合いの末重症を負わせた(もしかしたら死んだかもしれない)んだけど、二十数年たった今、なんの思い入れもない。というようななんのこたない話ですが、最後のシメが上手い。これとは逆で、自分を誰よりも大事に思ってくれていた姉への、かすかな後悔の念を中年になった今も燻らせている「中年」。「初旅」は家出した従兄弟を連れ戻しに行くことになった少年の幻想的なお話。これもラストがごいすーまいうー。
文芸文庫は本当にヤバ彦です。毎回言っている気がしますが、これでもう少しお安くしていただければ幸甚でございます。

*1:横なぐりの時雨のことだそうです。かっちょいい。