歳をとったのだ。素晴らしい。

悲の器 (新潮文庫 (た-13-1))

悲の器 (新潮文庫 (た-13-1))

高校1年の夏、
たまたま家にあったので読んでみたのですが、
いまいちな印象しかございませんで・・・・。
だもんで、大学3年当時、ゼミの教授が
この作品を絶賛しました際には、
なんとも同意しかねるところがありました。
それでもって、ここ数日で読み返してみまして、
うむ、おもしろい。
ごめんなさい、先生。おもしろかったっす。
わだすが未熟だったのだす。
なんでしょう、メロドラマ的要素があるのに、
非常に硬質な文章で、
十代の私には重かったんですね。
法学部の教授(頑固なオッサン)と、
家政婦(そこそこオバチャン)が男女の仲になるのですが、
病弱な妻が亡くなり、かなりの歳の差がある
若い女性との結婚話が持ち上がります。
そこで家政婦が教授を訴えるんですな。
でもこの教授、逆に名誉毀損で家政婦を訴えます。
そして、ここで!
がきんちょの私はうっかり見落としておったのですよ。
裁判メインじゃないんですよね、これ。
もちろん、裁判もきっちり描かれてますけども、
戦時中の思想弾圧の中、
法律というものがいかにして生き、死んできたか、
さらに権力の空しさと、人間の欲望が
実に克明に書かれとったのですな。
いやはやもったいないことをしておりました。
モサいだけの高校時分の私に比べると、
今はちょっとだけ経験と知識が装備されましたので、
良さが見えるようになったというわけです。