プレゼン

近所のスーパーに行った。鮮魚コーナーでおそらく4〜5歳と思われる男児が母親に魚はいやだと訴えていた。「ママ〜、お魚やだ!お魚食べたくない〜。」「ママはお魚食べるよ。」「やだやだ〜、お願い〜ママ〜。」母親は涼しい表情を崩さず、男児の必死の訴えもまるで店内のBGMであるかのごとく聞き流す。「ねぇ〜、ママったら〜。お肉食べたい〜、お肉〜。」「お魚食べると頭が良くなるんだよ。」魚を食べることのメリットで反撃か。「ぼくバカでいいもん。お肉〜。」おれの優先順位はそんなことじゃねぇ攻撃だ。カートに何かしらの魚の切り身が投入された。終了だ。「あ!パパもきっとお肉がいいよ!パパお肉好きだもん、パパ喜ぶよ、ママ!」自分のためにではない作戦に切り替えた。これはいけるか。「パパはお魚を出したらお魚を食べます。」あかんかった!いつの間にか鮮魚コーナーを過ぎ、加工肉コーナーも過ぎようとしている。と、その時、男児が動いた!「(スライスハムを手に取って)ハムでいいのでお願いします!」直訴だ、直訴、田中正造だ!母親が男児の手からハムを取った!いけたぞ!おまえはがんばったぞ、男児!「お魚美味しいよ。」ハムはそっと元の位置に戻された。「あは〜〜、お肉ぅ〜、マ〜マ〜ぁ〜〜、ねぇ〜。」彼のプレゼンは終わった。頑強な砦であった。しかし彼はがんばった。あの幼き者はどこで覚えたか彼なりの方法で健闘した。褒めてやりたいぐらいだ。しかし、わたしはレジで会計を待ちながら、ふと思った。普段「パパ」がそういうプレゼンをしているのかもしれないな、と。パパ、がんばれ。