イアフォン。

今まで使用していた5代目のイアフォンくんが身罷られました。イアフォンたちはすぐに逝ってしまう。主に帰宅・通勤電車の乗降で。わたくしも女ですが、世の女の被服や持ち物には、不自然な場所に役には立たないけど何故かついているボタンや、しゃれた焼き菓子のような突起がついていることが多くあります。このおしゃれたちこそがイアフォンの天敵なのでした。わたくしがもっと注意深くイアフォンを扱っていれば、彼らの攻撃をかわせたものを、気を抜いた一瞬の間にそれらとイアフォンは想像を超えた幾何学的な文様を織りなすのです。おしゃれた突起や巨大なボタンにか細いイアフォンが敵うはずもなく、接続部から内臓がニョと伸びるなどして、それは見るも無残な、悲劇的な最期を。5代目も同じでした。何度呼びかけてもそれがテクノでポコチャカしたりアンビエントでドゥワ〜ンしてくれることは二度とありませんでした。己の無力さと、彼への懺悔の気持ちでわたくしは慟哭しました。止めどなく流れる涙をぬぐいながら走り出しました。「もうイアフォンなんて!イアフォンなんて買うもんですか!」
数日後、わたしはビッグなカメラ、ビッグカメラにいました。店員さんに積極的に質問したり、「どっちの色がいいかな〜。」と迷った挙句、ちょっと頑張って超カッケー倍以上の値段のイアフォンを買いました。倍以上の値段だからなのか、無駄なデカさの無駄にカッケー箱に入っていました。自宅に帰り、早速いつも通りの感覚で6代目を装着、再生ボタンを押しました。聴いたことない繊細な音と響きが脳内に飛び込んできたので「はすッ!」となり、慌てて音量を下げました。「はー、こげな音聴いたことなか!耳がちぎれるばい!」危うく逆切れするとこでした。音響機器を侮っていました。名前をアナコフにしてもいいぐらい侮っていました。すみませんでした。翌日、わたしは6代目を装着し、蝶結びした5代目くんを丁重に資源ゴミしました。「いままでありがとう、そしてさよなら。」イアフォンのニョとなった所がキラリと光った、そんな気がした早春の朝。