汁物騒動。

久しぶりに食貪さん(40代OL)のおはなしです。食貪さんの本名は「食貪」ではありません。食に貪欲なので食貪さんと呼ばせていただいています。腐ったパンを捨てることが出来ずに会社の人に配ってしまったり、個人的なお悔みごとで貰ったとんでもなくパサパサのデカイ饅頭を会社の人々に切り分けて配ってしまうなど、食関連の仰天エピソードをもつスーパーOLさんです。先日、とある食堂にて女たちでアハハウフフとランチをしておると、わたくしのお吸い物(サービス品)に筍が入っているのを目ざとく見つけた食貪さんが、「わ!ミキコフさんのだけ筍入ってる〜!」と色めきたちました。わたくしの精神がざわつきました。『食貪蒲鉾事件*1』がフラッシュバックしたからです。その空気を察したのか母Lさんが、「最近ここの汁物って、おすまし多いよね〜。」と筍から話題をほんの少し逸らしてくれたのです。わたくしは、いえ、食貪さん以外のわたくしたちは安堵の空気に包まれました。ありがとう母Lさん。このありがとう母Lさんの「ありがと…」ぐらいで空気は一変しました。「月曜はすまし汁なのよ!火曜日はね〜味噌汁で〜、水曜は〜……。」一週間の汁物メニューを語る、食貪さんの誇らしげな声がフェイドアウトしてゆきます。胸を張り、箸を振りかざし躍動的な食貪さんの姿が徐々に歪んで見え始めました。「あたし、全部覚えてるよ。食べた物覚えてないのってやばいよ!」遠のく意識の中、高揚した食貪さんの言葉がはっきりと聞こえました。気がつくとわたくしは、安藤忠雄の建築のごとく無機質な表情で歯磨きをしていました。この日のランチでわたくしは何を食べたのかもはや覚えていません。ただ、食貪さんが食堂のサービス品をリサーチし、把握しているということだけは心に深く刻まれ、鏡に映るわたくしはだらしなく歯磨き粉を口角からたらし、かなしみの表情でこちらをみていたのだった。

*1:全員同じ定食を食べたのですが、食貪さんのお膳にだけ蒲鉾が入っていなかったため、「私のだけ蒲鉾入ってない!入ってないよね!」と食堂内で大騒ぎされた。(結果、食貪さんのお膳にも蒲鉾は入っていました)という歴史的騒動です。