落花生の女(ひと)。

odo-mikikov2013-01-18

その女(ひと)は落花生を食べていました。わたくしの隣に座っていました。そこは地下鉄の車内でした。わたくしよりは確実にお若いかわいらしい恰好をしたお譲さんが、座るやいなや鞄の中に手を出し入れし始めました。その動きはとめどなく続きます。匂いと音で分かりました。「このひとは落花生を食っている。」と。こっそり鞄からつまみ出された落花生の粒は、ストッパーがぶっ壊れてしまったメカのように延々口へと運ばれます。スマホをじっと見ながら、口は動き続けます。片手にスマホ、心に空腹、唇に落花生、背中に車窓、アアアアといったところでしょうか。その食欲に支配された様にわたくしは恐怖を感じました。お家まで我慢できなかったのだろうか、どこか地下に閉じ込められ、命からがら脱出して初の食事だったのだろうか、ナッツを食べ続けなければ血糖値がどうにかなってしんでしまうのだろうか、そしてその落花生は八街産なのだろうか。香ばしい落花生の香りとボリボリという音を隣に感じながら想像は膨らみ、わたくしのイマジネーションだけでその車両は満員電車になりました(うまいことゆうた!)。乳揉み会社にいた頃、八街で地獄のような仕事をしたことを思い出しました。わたくしにとってあの会社はなんだったのでしょうか。なんでもない、ただの通過点です。今起きているすべてがただの通過点です。わたくしの人生には通過点しかない。