夢幻の如くなり。

カノティブが帰国しました。ねずみの国に行きたいとのことでしたので、あの夢と現実がない交ぜになった不可思議なところへ繰り出しました。カノティブは入国するなり、防寒対策も完璧だと「暖のすけ」なるカイロを見せてくれました。ここで暖のすけの紹介は別にいらないんじゃないかなと思いましたが、自慢げに言うところが愛らしいなぁとも思いました。
そんな彼女はこの国で必ずねずみ邸を訪問し、そして毎回何の変化もないのですがサインをしてもらっています。疲れた時にそのサインを見てパワーをもらうのだと言っています。つまりこの国は彼女にとってのパワースポットなのです。わたくしはここを訪れることを楽しみに帰国したカノティブを思い、今まさにサインを書かんとするねずみさんに「このお嬢さんは、あなたさまに会うためにシンガポールから帰国したのですよ。」と伝えました。ねずみさんはサインを書く手を止め、じっとカノティブを凝視しました。そしてひしと抱擁したのであります。この感動的な場面をみながら、わたくしはというと、後に控えている家族のほうから漂う糞尿の匂いに気を取られておりました。若き母親が赤子の尻をさすりながら、「わあ!パンパンになってるぅ。」とつぶやいたのを確かに耳にしました。大きなねずみさんを見て興奮したのか、いや、ただ脱糞したかったからしたのかわかりませんが、いずれにせよ赤子は自由でよろしいなと思いました。ねずみ邸を出ますとなかなかに冷たい風が吹き、気温が下がっておりました。カノティブが大変に寒がっていたので、入国時に紹介してくれた「ぬくたろう」をお使いなさいよ、と申しましたところ、「暖のすけだよ!!」と即訂正され、負けじと「ぬくたろう」の方が暖かそうでいいと思う旨主張しましたが、これも当然のごとく却下でした。しかしわたくしは、今でも密かに「ぬくたろう」というネーミングのほうが暖かそうだ。そう、思っております。